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             記 念 講 演
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        憲法が危ない!脱原発・反貧困、そして九条

                元日弁連会長 弁護士 宇都宮健児


 はじめまして、ご紹介いただきました弁護士の宇都宮健児です。   
 先ほど司会者の方がお話しされた、本日は沖縄慰霊の日であります。実
は、今日は東京都議選の投票日でもありまして、私も東京都民の一人であ
ります。昨日、期日前投票を行ってまいりました。東京都という自治体の
選挙でありますが、首都東京の選挙は、来月の参議院選挙に大きく影響す
るといわれております。
 今日は憲法の話しですが、みなさんご承知の通り5月3日、憲法が施行
されて66年目を迎えましたが、一番憲法が危ない危機的な状況であると
思っています。私も年齢が66で、憲法と同い年なんですが、このように
危機的な状況を迎えたのは初めてです。と、言いますのは、昨年行われた
都知事選挙と同時に行われた衆議院選挙では、改憲勢力が3分の2を占め
ました。7月の参議院選挙で改憲勢力がさらに、3分の2を占めれば、憲
法改正を発議することができるのです。憲法の九六条で改正手続きが決め
られています。衆議院と参議院の国会議員の3分の2が発議すれば、国民
投票にかけられることになっています。第一次安倍政権の時に、国民投票
法が成立しております。手直しが必要な部分もありますが、来るべき国民
投票に向けて発議されれば、国民一人一人がその改正案が正しいのかどう
か、いいのかどうか、賛成するのか、反対するのか、が迫られる状況にな
っています。もし参議院選挙で改憲勢力が3分の2を占めれば、これから
3年間は選挙がありません。衆議院が解散すれば選挙になるのですが、す
でに3分の2です。改憲をしようと考えている勢力は、選挙をしようとは
考えません。そうするとかなり時間的余裕がありますので、その間に憲法
改正が発議され、国民投票が行われる危険性が極めて大きくなってきてい
ます。日本のこれから、将来を決める選挙になるのではないかと思ってい
ます。
 今日、お話しすることは、配布されているレジメと資料、それから九条
の会・よっかいちで準備されています、自民党新憲法草案を適時活用しな
がら進めたいと思っています。先ほど紹介にありましたように、昨年石原
都知事が突然、辞められまして、都知事選挙が行われることになりました。
市民団体から都知事選挙に出ていただきたいと要請を受け、出馬すること
になりました。実は、二〇〇九年にも私は、都知事選挙への出馬要請を受
けました。その時に二〇一〇年にある日本弁護士協会の会長選挙にぜひ出
てもらえないかという、弁護士グループの要請もありまして、二〇〇九年
の時には心理的にも重圧がありまして、かといって日弁連の会長は重圧が
ないというものでもありませんが、都政よりも弁護士の方が勉強すれば勤
まるのではないか、と考えまして日弁連会長選挙の方を選んだ次第です。

1.弁護士は人権の擁護と社会的正義の番人

 2011年の3月11日、予想もしなかった東日本大震災や福島原発の
爆発というものがありました。弁護士会や弁護士は、弁護士法の第一条に
ある「基本的人権の擁護と社会的正義を守ることにある」理念に従い、私
たちは、様々な人権活動をやってきたわけですが東日本大震災の時には、
被災者の人権が侵害されていたわけですから、日弁連が先頭に立って被災
者の支援、原発事故の被災者の支援をすべきだ、と震災当日に考え、被災
者支援活動を立ち上げまして、弁護士も被災地へ行きました。この経験の
中で地震大国日本の中に54基も原発があるのは、非常に問題ではないの
か。またもう一度このようなことが起これば、日本の社会そのものが成り
立たない危険性があると考えまして、日弁連会長を辞めてからも脱原発運
動に参加しています。併せて、貧困問題については、三十年間とりくんで
きた弁護士です。日弁連会長の時にクレサラ問題にもとりくんでまいりま
した。会長を辞めた時も、とりくんでいましたので、市民団体から都知事
選挙への立候補要請を受けた時、比較的冷静に聞くことができました。
他にふさわしい方がいない、且つ私でいいということであればお受けしま
す、ということで挑戦することになりました。
 その中で市民団体と都知事選に向けてどういう政策を立てて闘うかを議
論しまして、基本政策を4つ確認しました。 まず「脱原発」、都知事が
なぜ脱原発か、ということですが、福島で発電された電力の大半は、東京
都民が消費しているのです。また東京電力の大株主が東京都です。そう考
えた時、東京都や東京都民は、最大の責任があると考えました。また株主
総会で柏崎刈羽原発について脱原発の方向で廃炉提案することもできるの
です。そういうことで、まず東京から脱原発を発信していくということに
なりました。他の自治体もそれにならうものが出てきます。ひいては政府
の原発政策を大きく転換させることができるのではないか、ということで
す。

2.石原都知事で福祉レベルは最低に

 つぎに東京都は、47自治体の中で、財政力はもっとも豊かですが、石
原さんが都知事になってから福祉をばんばん切ったのです。都知事になっ
てまず言った言葉が「なにが贅沢かとって、福祉こそがもっとも贅沢だ」
でした。石原さんが知事になった時は、東京は福祉では、トップクラスだ
ったのですが、今は最下位レベルです。東京では、貧困のための餓死や孤
独死が頻繁に起こっています。他の都道府県よりひどい状態になっていま
す。これでは、いけないということで反貧困をかかげました。
 石原都政の中で「日の丸・君が代」の強制が行われています。これに反
対する教員 400名以上が処分されました。教育の管理統制が強化されまし
た。このような教育行政を考えまして「教育行政の転換」をかかげました。
 そして4つ目が「憲法擁護」です。憲法の問題は教育の問題であり、原
発の問題とも深く関わるものです。なかでも石原知事が昨年4月にアメリ
カへ行き、保守的な財団での講演中、突如として尖閣列島の国有化を言い
出しました。これを機に中国との関係がいっきに悪化しました。最終的に
は、野田政権は石原都知事と話し合って、9月に国有化を表明します。日
中関係は悪化して、中国国内では反日デモが行われます。尖閣諸島周辺に
中国の漁船や監視船が領海内に侵入します。
 こういうことがその後、頻繁に行われるようになりました。他方、竹島
の問題も大きな問題になりました。領土問題が国内でも盛り上がり、ナシ
ョナリズム、国家主義が台頭し右傾化しました。アジア、中国と韓国との
関係悪化が進みます。首都東京から「憲法を守る」というメッセージを出
す必要があると考えました。憲法擁護を考えてスローガンを出したのです。
私は、もし知事に当選した場合は、北京とソウルの市長と国際的な都市間
の関係を構築しまして、平和外交を進めていくという提案をしました。
 4つの提案を支持する政党や団体との連携を呼びかけました。残念なが
ら猪瀬候補には負けたのですが、96万票を集めることができました。1
00万票近くの支持を集めることができたのも、勝手連が50か所近くで
きたらではないかと思っています。また選挙事務所には、毎日50人から
100人ぐらいの人がボランティアとして選挙戦を闘ってくれました。運
動として大きな盛り上がりを作ることができましたことと、選挙が終わっ
ても勝手連のようなゆるやかなつながりを大切にしようということになり
まして、4つの政策を市民運動として推し進めていくことを確認しました。

3.恥ずかしい安倍政権の原発セールス

 選挙には敗れましたが政治的な立場や違いを超えて市民的なつながりを
つくることができたことは、たいへん大きな意義があったと思います。同
じ日に行われました衆議院選挙で改憲勢力が圧勝して、皆さまご承知の通
り安倍政権が誕生しました。安倍政権は、4つの提案、「脱原発・反貧困
・行政の転換・憲法擁護」とはまったく反対のことをはじめています。安
倍政権の一番の目玉は、憲法改悪の動きです。原発問題では、参議院選挙
の公約に原発は再稼働させるという方針を打ち出しています。安倍さんは
この間ずっと海外を回って、経済団体を連れてトップセールスをやってい
ます。トルコやサウジアラビア、この前はインドの首相を呼んで協定を結
びました。原発を輸出しようとしているのです。政治家としても問題があ
ります。なぜかと申しますと福島原発そのものがまだ解決していない。汚
染水がどんどん溜まって、それを置く場所がなくなってきています。また
貯蔵施設から漏れています。対策そのものが行き詰っています。今の福島
原発は冷却をし続けないと放射線が拡散する状況に置かれています。冷却
水を循環させるシステムがネズミ一匹で止まってしまうというしくみの中
で、処理がどのようになっていくのかも明らかにされていません。しかも
福島県民15万人の人が避難しています。県外に避難している人は5万人を
超えています。被災者の支援、被害者の救済がまったく進んでいない状況
にあるのに海外に対しては、原発を輸出しようとしています。政治家とし
ての在り方、人間としての在り方としてもどうなのか。人倫・モラルが問
われるのではないかと思います。原発で必ず出てくる問題に、使用済み核
燃料の問題があります。その中で高レベル廃棄物というのは、毒性がなく
なるまで10万年かかるのですね。その10万年の間、人間が管理して保
管しなければならないのです。この高レベル廃棄物の処理についてわが国
は未解決未決定です。福島原発事故の後、皆さまは、テレビや新聞などの
報道でお知りになったことと思いますが、フィンランドでは固い岩盤層を
300メートル掘り下げ、さらに横穴を掘り広げていくことを決定しまし
た。日本ではどこに、どういう形で処分するか、保管するかがまったくで
きていない。
 年金の問題では次世代にツケを残さないということで議論されているの
ですが、こと原発について言えば稼働させる時に、必ず出てくる高レベル
廃棄物の処理をどうするかを決めた後でスタートすべきであったし、させ
るべきだったと思います。しかしそういう措置をとっていないのです。そ
のうち何とかなるだろう方式でやってきた。昔、植木等さんの歌にありま
したが「そのうち何とかなるだろう」は全く無責任です。
 日本の原発技術が最高水準だというのですが、その最高水準で、事故が
おきてあのような結果にいたりました。被災者支援もまったくできていな
い。インド・サウジアラビア・トルコに輸出できたとしても、仮に事故を
完全に抑えたとしても、そこから出てくる高レベル廃棄物は、それぞれの
国の課題になります。全く方針がありません。これは次世代だけでなく地
球環境に大きな影響を与えるものです。手当ができていない中で、原発そ
のものを動かすということ、またそれを輸出することは、政治家のモラル
としてどうなのかと思っています。

4.生活保護バッシング
 
 貧困問題に対してもこの間、我々は反対運動を取り組んできました。そ
の中で見過ごしにできないことをやっています。それは皆さんも報道等で
、ご承知のことと思いますが、あるタレントの母親が生活保護をもらって
おりました。問題ではないのか!?という声があがるなど、バッシング報
道が行われました。
 自民党は、生活保護の大幅削減を発表し、生活保護法の改悪を行おうと
しています。今回の安倍内閣がやろうとしている削減は、三年かけて六五
〇億円の削減をやろうというものです。それと象徴的なのが十一年ぶりの
防衛費の増額、四〇〇億円の増額が行われます。社会保障を切り下げて軍
事費に回す、戦前行われていたことを安倍政権の最初の試みとして実施し
ました。
 生活保護費が切り下げられたのは過去二回、二〇〇三年に0.9%、二〇〇
四年に0.2%。戦後自民党政権が続いていますが、その歴史において2回で
す。今回の下げ幅は、平均6.5%です。また子どものいる世帯が一番大きく
て、10%ぐらい引き下げられるのです。二〇〇三年の0.9%や二〇〇四年
の0.2%の比ではありません。かってない引き下げが行われようとしていま
す。生活保護法、これは今国会の会期が二六日ですので、私たちは生活保
護改悪法を通さないように運動をとりくんできました。これまで生活保護
の申請は、口頭でできたのですが、これからは文章をつくらなければいけ
ないとなります。資料を添付しなければならない、とありましたが、これ
に批判があがりまして、一部口頭でもよいということになりました。いず
れにしても手続きを厳しくしているのです。預貯金の手帳や給与明細を添
付するとなると、日常生活でDVの被害を受けた人が夫から逃れてきたよ
うな場合は、そのような資料を持ち出せずにいるのです。そういう人たち
の申請ができなくなります。もう一つは、扶養義務の調査の強化です。必
ず親族の調査に行って、財産の調査をすることになるのです。
 昨年のあるタレントのお母さんが生活保護をもらっていたとことで、あ
たかも不正受給であるかのように報道されました。これは不正受給でも何
でもないのです。戦前日本には、家制度というものがありました。生活保
護と同じような「救護法」という法律がありました。親族の中で扶養でき
る人があれば、生活保護の申請が却下されました。扶養義務者の扶養能力
というのが生活保護の要件になっていました。ところが戦後新しい憲法下
で家制度がなくなりました。新しい生活保護法は、親族に扶養能力がある
人がいても、却下できなくなったのです。本人が生活に困窮していると認
定されれば、保護が受けられます。ただし親族から支援があったら、その
分を生活保護費から削減されるというものです。基本的にタレントは、高
額所得者として税金を納めているはずです。その税金を通じて所得の再分
配がおこなわれるというのが基本的な考え方です。ヨーロッパ社会もそう
なっています。家族で養うべきだ、というのは戦前の考え方です。

5.公助から自助へ餓死・孤独死の多発

 今回、自民党はそれに近いことをやろうとしています。いずれにしても
生活保護の申請をやりにくくする。今、日本には210万人の人が生活保
護をもらっているのです。日本の人口は1億2700万人ですから、だい
たい利用者は1.5%か1.7%ぐらいです。これがあまりにも多くなったという
ことでバッシングが行われています。ところがですね、ここに日本弁護士
協会が造ったパンフレットがあるのですが、ドイツでは人口比で9.7%です。
イギリスは、全人口が6200万人の中で9.27%ぐらいの人、574万人の
人が生活保護を受給しています。日本と桁違いに多いのですね。ところが
日本のようなバッシングは行われていない。日本はまだ利用率は少なく、
さらに利用する権利のある人が利用していない。捕捉率は、厚生労働省の
調査によると3割程度だそうです。10人いれば3人程度の人しか受給申
請が行われていないということです。福祉の研究者によると実態として2
割程度だろうと言われています。10人いれば8人の人は、生活保護を利
用できるのに利用していないという状況です。その結果、どういうことが
起こっているかというと、生活保護を受給していれば助かっていたのに、
受給していなかったために、また申請しても窓口で追い返されたため、餓
死とか孤独死をする人が今の日本の社会の中で発生しています。
 5月28日、大阪で28歳の母親と3歳の子どもの遺体が発見されまし
た。この母子は2月頃亡くなったのではないかとみられています。何も食
べていないのです。公共料金の請求書の裏に「最後にお腹一杯ご飯を食べ
させてあげたかった」というメモが発見されました。この母子は、生活保
護の相談に行った形跡がなかったのです。経緯の正確なことは、分かって
いないのですが、ツイッターによるとDVの被害から逃れて来た人ではな
いか、と言われています。したがって住民登録をしていないのです。住民
票を移動していないので自治体も把握できなかったのです。この母子も生
活保護が受けられていたら助かっていた可能性があるのです。こういうこ
とがあまり問題にされていません。橋本市長は、毎日記者会見を開いてい
るのだから、大阪市民の命を守れなかったことを謝罪すべきだった、と私
は思っています。こういうことをやらないで問題発言ばかりしている。同
じ弁護士としてほんとうに頭に来ています。

6.規制緩和と限定正社員

 生活保護費を大幅に削減して さらに申請しにくくさせる。これからま
すます孤立死や餓死が多発するのではないか、と私たちは反対運動をして
います。生活保護というのは社会保障の基本的な制度ですが、むしろこの
生活保護制度の改悪を突破口として社会保障全体を改悪しようとしていま
す。それから労働の規制緩和の問題についても1990年頃から非正規労
働を増やしはじめました。今回はさらなる規制緩和をやろうとしていまし
て、正社員の中で限定正社員という身分を作って解雇を容認するような、
労働者を安く使って、いつでも解雇できる経営者側に都合のいいような政
策ばかりとっているのです。
 こういうことがすすめば貧困や格差がさらにすすむことになります。ま
た、消費税増税をやろうとしています。ますます貧困や格差が広がるので
はないでしょうか。なぜかといえば低所得者というのは賃金の大半を使っ
てしまいますから、その全てに課税されるわけです。高額所得者は全部使
ってしまうわけではないですから、消費税は高額所得者には一番楽な税制
度です。私は貧困や格差をなくすためには、富裕層の課税を強化すべきだ
と思っています。社会保障を通じて所得補償の再分配が行われることによ
って、貧困や格差が是正されます。
 ご承知の通り1980年頃は、所得税の累進課税の一番高い税率は、75%
だったのです。それが今、40%まで下がっています。消費税率の引き上
げの毎に、所得税の税率と法人税率を下げを行ってきたからです。最初に
消費税の導入されたのは、1989年。3%の消費税が導入されました。
1988年レベルの所得税と法人税に戻せば、8%・10%の消費税引き
上げは、全く必要がないのです。こういうことがほとんど検討されていな
いというのは非常に問題です。

7.税金は金持ちから
 
 ちなみに私は週刊金曜日の編集委員をやっているのですが、週刊金曜日
の武田さんという人が「税金は金持ちから取れ」という本を出しています。
武田さんは、元大蔵官僚で税金のことはよく分かっておられる方です。二
〇一〇年トヨタ自動車の豊田章男社長の収入は、3億4千万円ですが、こ
の人が負担している所得税と住民税と社会保険料の負担率は20.7%だそう
です。その時の労働者の平均賃金は430万円ですが、彼らが負担する所
得税と住民税と社会保険料の負担率は34.6%です。3億4千万円もらって
いる人が20%で430万円の人が34%、富裕層にとって極めて軽い税率とな
っています。
 武田さんの話しでは金持ちはケチだ、ということです。その代表が経団
連です。1989年消費税が導入された時、法人税と所得税の減税を要求
し圧力をかけました。1997年に3%から5%に引き上げられた時も、法人
税と所得税が引き下げられました。つまり経団連は税金をいかに安くする
かを常に考えているのです。
 ところが一般の庶民、私たちも含めてあまり税金のことは詳しくありま
せん。そこで国も財政赤字を抱えてたいへんだから、1000兆円にもな
るし、自分の家計のこともあるのですが、それでも多少のことであればし
ゃあないか、というので応じてしまうのです。
 税金の課し方を考えればいろいろあるのです。先ほどのトヨタの社長の
ように労働者より負担率より低いのはなぜかというと、所得の3分の2が
持ち株の配当金だそうです。持ち株の配当金については、小泉・竹中政府
の時に証券優遇税制ができまして、所得税と住民税併せて10%でよろし
いということになりました。こういう抜け道をみつけ税金の負担を逃れて
きました。こういう不公平を議論すべきだと武田さんは述べています。し
かしなかなか議論にならない。朝日新聞ですら消費税増税はしかたがない
という論調です。大手の新聞はどこもそうです。朝日新聞の記者の給与は、
30歳で1000万円を超えているのだそうです。
 したがって所得税を上げろという議論は自分たちにとって不利になるこ
とです。だからそういう議論は言わない。だから反貧困ネットやクレサラ
問題にとりくむ私たちは、金持ちから税金をとれという運動をやらなけれ
ばならないということを話し合っています。ただ貧乏人がこういうことを
やるとマスコミは取り上げてくれません。そこに金持ちを入れていっしょ
に運動がやれないかということを考えています。

8.金持ちも社会貢献したい

 ユニクロの社長の財産は1兆円か2兆円になっているのだそうです。し
かしいくら稼いだとしても、死んだらあの世に持っていけないのです。生
きている間にそれを社会貢献する。金持ちも高い税金を払いたいのだ、と
いうことを金持ちから言わせられないかということを考えています。ソフ
トバンクの孫さんやそういう人にはたらきかけて一緒に運動をやろうでは
ないかということを企画しています。
 アメリカでは、ビルゲイツにならぶウォーレン・バフェットという投資
家でお金持ちがいるのですが、彼はオバマさんにもっと俺たちから金を取
れと訴えています。金持ちも社会貢献をしたいのだ、というのです。日本
の経団連は道徳的にも非人間的な人ばかりなので期待できませんが、何百
人に一人ぐらいは運動に共鳴してくれる人がいるのではないかと思って、
根気強くとりくんでいるところです。
 教育再生復興会議を作って、東京都と大阪では、君が代・日の丸問題で
教員への圧力を強めています。また教育委員会を解体して首長が直接教育
内容に踏み込めることを可能にしていますが、これを全国化する方針です。
TPPへの参加というのは自民党は衆議院選挙の前は曖昧な態度でしたが、
参加することになりました。医療や保険制度を解体される危険性があると
言われています。個別企業の利益だけを考えている協定ではないかと思う
のです。
 今までお話しした問題も憲法に関わる問題です。憲法25条の空洞化、
憲法25条は人間として文化的な最低限度の生活を保障するものですが、
生活保障生存権の保障しているのですが憲法改正の前に事実上、空洞化さ
せようとする動きではないでしょうか。
 
9.憲法改正の動きと領土ナショナリズム
  
 憲法改正の動きなんですが、ご承知の通り参議院選挙の結果によっては
全国的な問題になる。こういう改憲勢力の背景に、領土問題を中心とする
国家主義の台頭の問題がるのではないか、と思っています。本日の資料の
中に、在特会の新大久保での活動、在日韓国・朝鮮人の多い地域、コリア
ンタウンでのデモでは、「良い韓国人も、悪い朝鮮人も皆殺しだ。レイプ
するぞ!」「首吊れ・毒飲め・飛び下りろ」むちゃくちゃなことを言って
います。こういう人種差別・排外主義的なものをヘイトスピーチというも
のです。日本にはデモのスローガンやシュプレヒコールの規制する法律は
ありません。ただ日本も参加している人種差別撤廃条約では、そういう人
種差別的な発言を規制しているのですが、日本政府はわが国には排外主義
や人種差別はない、ということでその条項は留保しているのです。ヨーロ
ッパ、ドイツでは、先の大戦でのナチスの戦争犯罪には時効はなく、今日
においても元ナチス戦争犯罪者の追及が続いています。
 わが国では「朝鮮人を殺せ!韓国人を殺せ!」を直接取り締まることは
できないのだけれど、具体的に名指ししてそういうことを言った場合には、
刑法で名誉棄損や侮辱罪、さらに脅迫罪で取り締まることができます。店
先に行って「韓国に帰れ!」と言った場合は威力業務妨害罪となります。
したがってこういうことをやれば取り締まれるんですが、ただこういう個
々のスローガンだけでは取り締まれません。こういうデモが各地で過激化
しています。
 特に安倍政権が出来てから多発している。私たち弁護士グループは警視
庁に対して、適切な取り締まりを求めてきました。このようなデモに対す
るけん制をやっていますが、ヘイトスピーチを規制すると表現の自由が危
うくなります。例えば反原発デモや民主的な団体や組合のデモにも影響す
るのではないか、という懸念があって直ちに立法ということにはならない
のです。ヨーロッパではヘイトスピーチを規制することが表現の自由と矛
盾しない、むしろ人種差別や人権侵害を防止することになる、という考え
です。意図的なヘイトスピーチの規制を行っています。
 日本政府は、民族差別はないと国連で言っていますけど、今から90年
前、1923年に関東大震災が発生しました。その時かなりの朝鮮人が殺
されております。民族差別、最近では大阪の橋本や石原の発言は、すべて
差別発言です。大阪に鶴橋という朝鮮人の多い所でのデモを見ると民族差
別・人種差別的な言動が目立っています。そういう点では、民族差別や人
種差別的なヘイトスピーチを規制すべきだと考えています。
 
10.ヘイトスピーチと非正規雇用労働者

 こういう若い人たちの動きで象徴的なのは1か月か2か月か前、沖縄で
42の市町村の決議をもって上京した市長さん・議員さんが日比谷野外音
楽堂でオスプレイ配備反対の決起集会を開催しました。その後、都内をデ
モしたのですが、そのデモのコースの沿道にデモ隊以上の人数が集まって
「国賊」と罵倒を浴びせているのです。日本刀の模擬刀を振りかざした青
年がデモ隊に襲い掛かりました。これも在特会のデモに似ているのですけ
ど、昔の右翼の様に迷彩服を着て、街宣車を運転している右翼と違います。
普通の市民のような恰好なんですね。その彼らが沖縄のデモに対して売国
奴だ、というのですね。彼らにとってオスプレイは中国から日本の領土を
守る必要なものだ。それの配備を反対するのはけしからん、というのです。
こういう若い人がたくさん出てきているのは非常に問題です。このような
デモに参加しいている人は、必ずしも裕福な人たちとは思えない。それだ
け時間があるというのは、非正規労働者が多い。在日韓国朝鮮人をバッシ
ングする人たちは、彼らがいるから自分たちの仕事は奪われた。自分たち
が満足な暮らしができないのは、彼らのせいなのだ。だから日本から追い
出せという考え方になって行った。
 
11.生活保護監視条例

 このような空気が広がる日本の社会は、分裂して来ているし、それを煽
るような政治家の発言もある。これに似たようなのが生活保護のバッシン
グです。兵庫県の小野市というところでは、生活保護受給者がいたら市に
通報しなければいけない、という条例が圧倒的多数で成立しました。住民
同士を監視させようとしているのと、憲法25条の生存権を委縮させるこ
とになります。権利行使が当たり前なのにそれを委縮させる条例が通って
いる。生活保護は受けていないけど我慢している人がいて、その人が生活
護を受けている人を監視するという状況です。
 こういう構図を意図的に作ろうとしている感じがしています。日本の社
会として危うい動きだなと感じています。安倍政権は、改憲の前に人権の
制限をやろうとしている。憲法25条もそうですけれど、九条を変える前に
集団的自衛権を容認しようとして安保法制懇を復活させています。この懇
談会の議論を踏まえて国家安全基本法を制定させようと狙っています。集
団的自衛権の行使というのは、今までの自民党も含めたこれまでの政府の
見解は、日本が外部から攻撃された場合に武力の行使は、自衛権の範囲で
憲法に従うものだ、という見解でした。日本が攻撃されたわけではないの
に、米軍が攻撃されたら日本も反撃するのは憲法違反である、という解釈
でした。

12.集団的自衛権は米軍の肩代わり

 ところが今、アメリカから集団的自衛権を行使しろ、といわれています。
なぜかといいますと、アメリカの国家財政がイラク・アフガニスタン戦争
で逼迫しているからです。アメリカは今後10年かけて防衛予算を40兆
円削減する計画を立てています。一方でアメリカは、アジア重視の軍事戦
略を持っていますが国防予算を削減しなければなりません。そこで日本に
片棒を担がせようとしているのです。そのアメリカンの要請に応えようと
しています。
 集団的自衛権の行使というのはアメリカが攻撃された時、日本もいっし
ょに闘う体制を作ることが大きな変化です。これまでは憲法違反であった
が、憲法を変える前でも解釈でこれを実現させる。これが安倍政権の狙い
です。
 一時、憲法96条改正が言われましたが、最近はトーンダウンしていま
す。参議院選挙の争点に、と言われていました。自民党はもともと自主憲
法制定をかかげている政党ですが、96条改正を言い出したのはここ1・
2年です。 
 これまでは九条改正について3分の2の国会発議をして改正といってい
たのが、急に96条改正を言い出しました。これは維新の会とみんなの党
が言っています。しかも昨年の衆議院選挙で維新の会が50数議席を獲得
しました。自公で今、3分の2を取っていますが、維新の会と組んでも3
分の2になります。したがって96条改正し、他の条項を改正する方が改
正がやりやすいと考えて、急に96条改正が浮上したのだと思っています。
 最近トーンダウンしてきているのは、維新の会の支持率が伸びない。4
月20日、尼崎で講演を頼まれたのですが、宝塚市と伊丹市の市長選挙が
ありました。結果は維新の会がダブルスコアで負けました。関西での影響
力は一番でしたが、橋本市長の従軍慰安婦発言「米軍が沖縄の風俗を利用
したらどうか」は、マスコミを利用してきた橋本が墓穴を掘ったのです。
ますます支持率が落ちてきています。公明党は改憲に必ずしも賛成ではあ
りません。加憲の立場です。そこで96条改正は後回しにしなければなら
なくなりました。しかし参議院選挙の結果によっては油断できません。

13.権力を縛るのが憲法

 憲法は、国民の権利を守るために国家権力を縛るものです。国家権力が
暴走して、国民の人権や自由を縛ることから国民を守る、国家権力に歯止
めをかけているのが憲法だ、という考えが立憲主義の立場です。憲法は最
高法規でありますから、法律より可決成立の要件が他国においても厳しく
なっています。
 これは当たり前なんですが、それを変え、権力を縛ることを緩和させる
というのは、権力を行使する側がやりやすいように変えるということです。
立憲主義の観点からも改正条件を緩和するのは、許されないことです。こ
れは学者の一般的な考え方です。
 本日の資料の中に学者96条を守る会というのがありましたが、その中
に小林節さんという方がみえますが、この方は改憲論者です。一時自民党
の改憲運動を指導していた人でもあります。私は大嫌いです。なぜなら彼
はサラ金の擁護者なんです。「金利を引き下げたことは許せない。業者の
営業権を奪う行為だ」などと言ってました。しかし今度は良いことを言っ
てました。「96条改正は立憲主義の立場から許されないことだ」と述べ
ています。
 自民党は96条改正の説明の中で諸外国の例を持ち出しています。例え
ばドイツは50から60回改正を行ってきた、がそれです。それに対して
日本は憲法施行後、まったく改正をしていない。それはハードルが高いか
らだ、というのが彼らの理由です。しかし実態は違います。憲法改正をし
てきましたが、改正条項を改正した国はどこにもありません。今日の新聞
にも資料として紹介されています。96条先行に異論続出とあります。ア
メリカの改正条項は議会においては、3分の2以上の発議、州議会におい
ては、4分の3以上が必要だ、となっています。日本に近いのは、韓国で
すが、議会の3分の2以上の発議で、国民投票の過半数となっています。
それでも9回変えています。

14.韓国は国民の過半数で

 よく調べてみると、韓国の方がハードルが高いのです。国民投票におけ
る過半数は、有権者の過半数で、投票数の過半数ではありません。国民の
過半数の指示がなければ成立しないのです。しかし日本の場合は、最低得
票数はありません。したがって投票数の過半数で成立となります。20%
の投票数の場合でも11%で成立ということになります。そういうハード
ルが高いのに改正がなされているのが実態であって、憲法改正のハードル
が高い、低いという議論は、まったくの誤りです。事実に反するものです。
 参議院選挙の結果、維新の会がどうなるのか。また最近、維新の会とみ
んなの党に亀裂が入っていて、みんなの党は96条改正には賛成だけれど
も「憲法改正の前にやることがあるのではないか」公務員制度の改革はど
うなったのだ、という風に変わっています。慎重に見ていく必要があるの
ではないでしょうか。

15.自民改憲草案はクーデターだ!
 
 自民党の改憲草案について話しを進めます。日本の憲法は立憲主義の理
念によって造られています。これは先進国、世界的にもそうです。また3
つの基本原理に貫かれています。国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和
主義の原理から成り立っています。多くの憲法学者は、この原理の変更や
改正は許されないことであるとしています。これを変えるというのは革命
やクーデターです。
 諸外国、とくにドイツが59回近く変えているのですが、ほとんどは基
本原理を変えるのではなく、統治機構の大統領の任期や歳費の問題で変え
ているのです。基本原理を変えているのはほとんどありません。自民党案
は立憲主義の基本原理をはじめ、3つの原理を変えようとしているのが特
徴ではないのかと思います。
 立憲主義は先ほど国民の自由と権利を守るものだ、と申し上げましたが、
現行憲法の99条「公務員の憲法擁護尊重の義務」では「天皇又は摂政及
び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護
する義務を負ふ」国民は出てこないのです。ここに名指しされている人は
権力の行使する人たちです。国民の自由と権利を守りなさいよということ
です。
 これは立憲主義を象徴するものです。それに対して、自民党憲法草案1
02条では「すべて国民は憲法を尊重しなければならない」とあります。
国民に対して憲法を守れと言っています。まったく逆転した考えを打ち出
しています。しかも2項では、現行憲法と似たものなんですが、実は天皇
と摂政が抜け落ちています。天皇と摂政は憲法を守らなくてもいいのか、
ということになります。

16.国民から主権を奪う草案

 その他の公務員の中に入るという議論がありますが、そのようなことは
考えられません。とにかく名宛人を変えてきている。96条の改憲要件の
問題もあるのですが、立憲主義の基本原理を変えてきていることも大きな
問題です。
 天皇の位置づけをかなり変えてきています。いままで象徴だったものを
元首としています。前文のところにも天皇が出てきます。日本は天皇を頂
く国家だとしています。第3条に日の丸君が代を規定し、第4条では元号
を規定しています。どれも天皇と一体のものです。現行憲法では「天皇は
憲法の定めに従い、国事行為のみを行い」とありますが、自民党案では「
のみ」を取っています。
 それから変な書き方だと思いますのが、「助言と承認」に対し、第6条
の第4項「天皇を国事行為は内閣の進言を必要とする」となり、進言だけ
で承認が抜けています。決定権は天皇にあるという風に書いています。こ
の点からも天皇の位置づけを強化しながら、天皇の政治的利用を意図して
いるのではないでしょうか。4月28日の「主権回復の日」に象徴的に現
れています。これはサンフランシスコ講和条約締結の日にあたります。沖
縄では屈辱の日として抗議集会を開いています。中山知事は参加しなかっ
た。
 ここに天皇を参加させ、権威付けをしようとしました。天皇の政治利用
をやりやすくしようとすることが現れている。それと同時に4月28日の
主権回復の日に天皇が退席しようとしたときに、一人が天皇陛下万歳を叫
びました。そこにいた人たちが全員、三権の長も含めて天皇陛下万歳を叫
びました。私は戦後生まれですが、異様な感じがしました。国民のなかに
も万歳の人もいるのでしょうが、天皇も戸惑って退席したようです。もと
もと日本国憲法が作られた時、松本案なんですね。天皇の護持ですね。自
民党の議員もたくさんいましたので、万歳となったのでしょう。天皇制を
どう考えるかというのも厳密に考えることも必要なのではないでしょうか。
 われわれ自身が日常的にも平成など、と元号を平気で使っていますが。
もともと日の丸・君が代についても明治以降にできたもので、国民主権の
国で君が代はおかしいと思います。
 先ほど憲法学者は、3つの原則を変えることはできないが、それ以外、
例えば天皇制については、国民が合意すれば廃止もよいかと思いますが、
戦前は天皇主権の中で多くの国民が命を失いました。こういうことと靖国
の問題は深く結びついています。われわれも、もう一度深く考える必要が
あるのではないでしょうか。

17.国防軍設置と軍法会議

 九条の問題は報道でもよく伝えられていますから、九条2項「陸海空そ
の他の戦力は保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」となってい
るところは、自民党案では、「前項の規定は、自衛権の発動は、妨げるも
のではない。」となっています。自衛権の発動としての戦争は認める。こ
れまでの戦争の大半は自衛のもとに行われてきました。わが国はこれから
他国を侵略する、と宣戦布告してはじめます、はなかった。自衛のために
万止むを得ざる行動で戦端を開いた、という説明をしてきました。九条の
二で国防軍を設置する規定をしています。5項で「国防軍に審判所を置く」
という規定があります。自民党のQ&Aでは、軍隊の規律を守るための軍
法会議であるとしています。戦前の軍法会議は秘密会議だったわけです。
軍法会議で有名なのが1936年の2・26事件では、1400人の兵士
が決起して、永田町、霞が関一帯を占拠しました。最終的には鎮圧され、
青年将校たちは、軍法会議にかけられ、弁護人もつけられず全員が処刑さ
れました。この青年将校たちに影響を与えた北一輝という思想家がいまし
たが、どういうことが審議されたのか明らかにならないまま結審を迎え、
処刑されました。
 国防軍の第4項に「国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、
法律で定める。」とあります。実はこういう法律は憲法改正前に出てくる
可能性があります。秘密の保持、秘密保全法が準備されています。今から
26年前、中曽根内閣の時に国家機密法「スパイ防止法」と呼ばれた法律
が提案されました。しかし当時は、まだ野党が力がありました。また日弁
連も対策本部を作りました。大きな国民運動になり断念させることができ
ました。昨年、野田政権の時に秘密保全法を出そうとしましたが、マスコ
ミと連携しまして、とうとう野田政権では出すことが出来ませんでした。
憲法改正が行われる時でも、事前に様々な法律が準備されます。そのこと
を念頭に置く必要があります。すべてが一度に出てくることはありません。

18.徴兵制と18条

 現行憲法18条「何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に
反する苦役に服させられない。」があります。憲法学者の多くはこの条文
があるから徴兵制はひけない、また国民総動員法のように国民を徴用して
軍需工場で働かせることはできなくなっている、のだと説明をしています。
この18条についても自民党の草案は表現を変えています。その結果徴兵
制を可能にしたのではないか、という憲法学者もいますし、否、18条で
はあいかわらず徴兵制や国民徴用制はできないのだという学者もいます。
だから徴兵制をひくためには再度憲法改正が必要だとしていう学者もいま
す。
 いずれにしても国防軍ができて、米軍と行動を共にし、戦闘になれば、
自衛隊に犠牲者がでます。今は、災害支援やPKOという戦争に巻き込ま
れないところでやっていますが、自衛隊の中で死者が出ます。いままでの
ように自衛隊に入りたいという人が少なくなります。アメリカは今、徴兵
制はありません。兵士をどのように集めているのか、といいますと格差が
広がっている中で、貧しい家庭に育った青年は、学校に行くためのお金が
ありません。借金して学校に行くことになりますが、日本では返せなくな
ると自己破産という制度があってチャラにできますが、アメリカでは奨学
金は、非免責債務で、税金や罰金と同じ免責されず一生かかっても返済し
なければなりません。

19.米兵の大半は貧しい青年たち
 
 貧しい家庭に育った子どもたちは、どうしているのかというと、軍に入
ることになります。軍隊に入れば奨学金を立て替えてくれますが、その結
果、イラクやアフガニスタンの最前線で闘うことになります。
 堤未果さんの書いた「貧困大国アメリカ」という本があります。アメリ
カに行って米軍に入った日本人の青年のことが書いてあります。どうして
も食えなくなって米軍に入ってしまった。背に腹は変えられない。アメリ
カには憲法25条がなかったからです。今、青年たちの貧困は、将来の国
防軍の兵士を組織するためにあえて放置しているのではないかという学者
もいます。アメリカのことを思えば可能性があります。自民党憲法草案に
は、国民の義務が10個追加されていると言われています。国防義務・日
の丸君が代尊重義務・領土資源確保義務・公益および秩序服従義務・個人
情報不正取得等禁止義務・家族助け合い義務・環境保全義務・地方自治負
担義務・緊急事態服従義務・憲法尊重擁護義務、今までは権利中心で、義
務は労働・教育・納税だけでありました。国民に義務を押しつける改正案
になっている。
 これまでは人権を制約する概念として「公共の福祉」ということばがあ
りました。自民党案では「公益および公の秩序」で人権を制約しています。
憲法学者はこれまで人権と人権のぶつかり合いを調整するために「公共の
福祉」を使っていたのですが、「公益および公の秩序」は個人と個人の人
権の調整というよりも国家利益や秩序という社会全体の利益のために人権
は制限されてもしょうがないのだという考え方を全面に押し出してきてい
ます。
 この象徴というのが、憲法21条の「集会結社・表現の自由」の制限だ
ろうと思います。集会結社・表現の自由というのは、民主主義社会の基本
的人権として一番重要な権利だと思います。これが認められないというの
は民主主義社会ではない。現行憲法では制限を加えていない。しかし自民
党の憲法草案には、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害す
ることを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすること
は、認められない」と書いています。
 公益および公の秩序に反すれば制限を加えるというものです。問題は、
誰が公益や公の秩序を害する、と判断するのでしょうか。権力者が判断す
るとなると大変なことになります。金曜日の官邸前集会は、公の秩序を害
すると判断すれば禁止となります。
 戦前は、1925年に治安維持法というのができました。これは国体を
変革することを目的とした結社を作っただけで処罰されるというものです。
最高は死刑でした。
 新聞紙法というのがありまして、安寧秩序を害する新聞は内務大臣が発
禁にできる、というもので社会主義的な機関誌や政党が発行する新聞を発
行禁止にできたのです。現行憲法では新聞紙法のようなものができれば、
憲法違反でありますが、自民党改憲草案では可能となります。

20.国民主権の否定

 第97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年に
わたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬
に堪へ、現在及び将来の国民に対して侵すことのできない永久の権利とし
て信託されたものである」が完全に削除されています。今の憲法の一番大
事なことは、何かといいますと、個人の尊重と個人の基本的人権が核にな
ると考えています。これを国家権力に侵害させないために憲法がある。そ
して基本的人権の尊重、国民主権の国家でなければいけません。国民が主
権をもたないような国にあっては、基本的人権が守れません。戦争は最大
の人権侵害であり、平和でなければなりません。この原則がばっさり最高
法規の章で削られています。
 自民党案では24条「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊
重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」で家族の位置づ
けを強化しています。社会保障は、家族が基本だと言ってます。私は、社
会保障は公助が基本だと考えています。戦前の家制度のもとで女性や子ど
もは、大きな犠牲を強いられていました。こういう反省をふまえない内容
になっています。
 緊急事態法、戦前で言えば戒厳令です。関東大震災で戒厳令がひかれま
した。その時、かなりの朝鮮人が殺されました。また社会主義者、大杉栄
と伊藤野枝とその子どもや労働組合の役員が殺されました。戒厳令下では
人権が守られなくなります。内閣総理大臣が何でもできる。立憲主義を変
える。人権に規制を加える憲法です。

21.立憲主義? 何ですか

 自民党の改憲草案は、実に問題の多いものになっています。どの程度勉
強して作られたのか疑わしい内容です。3月末の予算委員会で民主党の若
手議員が安部首相に「個人の権利が尊重されるのは何条ですか」と質問し
たところ、「いきなりクイズのような質問には答えられない」と答弁しま
した。改憲草案を作った改憲草案事務局長の磯崎さんは、自分のツイッタ
ーで「今まで立憲主義などというコトバは聞いたことがない。意味不明だ」
とつぶやいたそうです。およそ憲法とは何かを理解して作られたとは思え
ないものであります。
 こういうことが明らかになれば、問題点がどんどん明らかになっていく
と思います。それから安倍さんは、国内で多数をとったからなんでもでき
る、と思っているふしがあります。例えば人権の問題、最初にポツダム宣
言を受諾しました。国連の中に様々な人権委員会があります。第二次大戦
では世界で5000万人以上の人が亡くなっています。その反省の上に世界人
権宣言であります。そういう認識の上にたって考えなければならないもの
であります。
 また九条の問題は、日中戦争から太平洋戦争へと広がる中でアジア諸国
に1000万人を超える人たちを犠牲にしました。日本も広島、長崎、沖
縄、東京大空襲等で310万人を超える人が亡くなっています。この犠牲
と反省の上に立って作られた憲法であるということです。九条は日本の侵
略戦争への反省だということです。それを変えるということは、反省をし
ていないということです。国際的にアジア諸国からますます警戒されると
いうことです。そういう国際的な視点から考えるものでなくてはなりませ
ん。
 今の日本は、全体に右傾化していますけれども、安倍さんや菅官房長官
は、そうではないと発言していますが、世界はそうは見ていません。アメ
リカのマスメディアもそうです。日本の政治家やわれわれ国民も考えなく
てはなりません。憲法は日本の国内だけでなく、外国からの視点、戦前ア
ジアの人々を侵略したという反省の上に立って作られたということを知る
必要があります。

22.違いを超えて連帯を

 7月の参議院選挙に向けて政治的イデオロギー的違いを超えてつながる
必要があるのではないか、と思っています。護憲や脱原発の勢力が手を取
り合えない状況があります。私はそういう点では、保守に学ぶ必要がある
かなと思います。保守の政治的指導部、民主党は全然様変わりしました。
当初の期待を裏切った。その支持者たちは自民党にいったかというといか
なかった。東京都では自民党は票を減らしているのに議席を伸ばした。民
主党の減らした票が維新やみんなへと行った。なぜそうなっていったのか
を分析しなければいけないと思います。
 リベラルは、ちっちゃな違いでまとまれないのに対して、保守はちっち
ゃな違いであればまとまります。権力を取ろうと狙っているからなんです
ね。リベラルは、ちっちゃな違いを拡大して分裂させてしまいます。政治
的イデオロギー的立場を超えて連携していく。当然、私は講演を引き受け
るとき、キリスト教の団体などにも出かけていきます。都知事選で小さな
違いを超えることが出来たのではないかと思っています。未来の党、緑の
風、社民党、共産党、生活者ネット等といっしょに闘いつながることがで
きました。このことを国政選挙まで広げられないものかと思います。
 運動を広げることの大切さは、脱原発や憲法だけでなく無関心層をどう
アピールしていくか。100万票は有権者の一割なんですが、8割・9割
は、無関心層なんですね。そこにメッセージが届いていない。その人たち
とつながるような運動を構築していくこと。昨年さよなら原発で17万人
集まったというのですが、それがすべて都民だったとしても、1000万
人の有権者では、1.7%に過ぎないのです。100万人から200万人集ま
ったら、かなりの影響力をもつでしょうが、まだ集会にも官邸前行動にも
行かない人たちに、どうすれば問題意識をもってもらうことができるのか。

23.若者から戦争の犠牲に

私は1946年生まれです。私の父親は戦争に行き、足を負傷して帰って
きました。足を引きずりながら畑仕事をして私たちを育てました。私の生
まれた漁村は、200名ぐらいの小さな村ですが、戦死者が何人も出てい
ます。戦争の悲惨さを私たちの世代や上の世代は、身をもって感じていま
す。平和憲法に、これでもう戦争に行かなくて済む、戦争から解放された
という解放感がありましたので、平和憲法は私たちの内で育っているので
すね。こういう感覚は若い人たちにはありません。ところが戦争になった
らそういう若い人たちがまず犠牲になるのですね。ところがその若い人た
ちが一番無関心なんですね。まさに憲法改正、九条改正はその若い人たち
なんですね。だからそういう若い人たちに関心をもってもらうアピールや
運動を考えていく必要があります。
 私は弁護士ですので、実務家・実践家です。その考えでいくと、護憲運
動では変えるか変えないかだけの運動で、その中にある人権や精神につい
て定着させる運動が弱かったのではないかと強く感じています。例えば先
ほどお話ししました憲法25条、それを具体化したのが生活保護ですね。と
ころがその権利を行使している人は、10人いたら二人か三人です。多く
の人たちが権利行使をしていない。しかも権利行使をしている人へのバッ
シングが行われている。兵庫県の小野市にいたっては生活保護者への市民
による監視、パチンコ禁止条例ができました。いかに憲法25条が社会的
に定着していないか、という事であります。この原因は我々なんですね。
定着させる運動が弱かったということです。学校教育が非常に問題だと思
います。受験勉強や知識重視の教育が問題です。25条を覚えるより権利
行使がもっとも大切ですね。まず教えるべきは、生活保護の申請の仕方。
どこにどういう書類をだすのか。また断られた場合、どこのどういう団体
に相談すればいいのか。これが十分やられていない。憲法28条に勤労者
の団結権があります。団体交渉権があります。知識として教えるだけでな
く、労働組合の作り方を教えるべきです。そして団体交渉のしかたを教え
る。分からなかったら労働組合の役員を呼んできて講義をさせればいい。
社会に出て労働組合を作ろうとしたら解雇されたら、弁護士を頼ればいい
のです。こういうことは外国では教えられているのです。日本だけが観念
的な授業にとどまっているのです。

24.暗記の教育から行使できる教育へ

 「集会結社・表現の自由」これも、デモの仕方、ビラのまき方を教える。
集会のやり方をきちっと教える教育が行われていない。日教組をよく右翼
が批判していますが、私たちも批判しなければなりません。「現場でしっ
かり日本国憲法を教えているのか」の声をあげましょう。私は理念的にし
か教えられていないと思います。憲法12条には「不断の努力によって」権
利を守るものです。権利は闘いとっていくものです。闘いとっていかない
と定着しない。こういうことを改めて考えなければいけません。

25.憲法を日本の社会に定着させるチャンス

 最後に憲法改悪というかなり厳しい状況を迎えていることについて話し
ます。私はやっと状況が来たのだと感じています。なぜなら私がここに呼
ばれることになったのもそのことによります。1か月に十数回の講演の機
会があります。私の専門は、貧困やクレサラ問題なんです。それがほとん
どが憲法なんです。これはみなさんが関心を持っているということではな
いでしょうか。そして「96条の改正」はおかしい、という声になってい
きました。国会議員の中にも立憲主義を知らなかった人もいるぐらいだか
ら、国民のなかにも当然知らない人がいます。今、まさに日本国憲法を日
本の社会に定着させるチャンスなんですね。確かに厳しい状況ですが、こ
れを機に改悪は阻止すると同時に、「阻止をしたら、ああよかった」で終
わるのではなく、原点に返って憲法を日本の社会に定着させる運動をやっ
ていく必要があります。私も全力で皆さんといっしょにやっていきますの
で、皆さんもどうかがんばってください。


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